魔法があるなら
また、図書館に行ってきました。
今度は、外国文学ではなく児童小説のコーナーでこの本を見つけました。
娘がすらすら読める漫画のような本ばかりをチョイスするので、「たまには読み応えのある、しっかりとした本を読みなさい」なんて言いながら、娘が読めそうな長編小説を探していたら、前々から自分が読みたいと思っていたこの本を見つけてしまいました。
「なぁんだ、この本は児童小説の範疇に分類される本なのかぁ」と思いながら、娘の本のチョイスはやめて、自分のためにこの本を借りてしまいました。
確かに、子ども向けの小説かもしれません。面白いです。心温まるコメディ映画を観るような気持ちで、ドキドキしながら童心に戻って、読ませていただきました。
夢を追いかけて戻ってこない父親に見捨てられた幼い二人の姉妹を抱えた母親が、追い詰められた末に、苦肉の策に選んだ今度の住まいはなんと、世界で一番素敵なデパート「スコットレーズ」。
ものすごく豪華で、歩いても歩いても終わりがないほど巨大なお店。スコットレーズには、お菓子も飲み物も、ダイヤモンドも玩具も何だって揃っている。
でも、ここに住んでいいとは誰も言っていない。勝手に住みついてしまってはいけない場所。
能天気なママとまだまだ幼い妹は、快適そうに暮らしているけれど、心配性の私、リビーには、どんなに素晴らしい環境でも生きた心地がしない時間が過ぎていく。
そんな暮らしがいつまでも続くわけがない!
日々、はらはらすることを乗り越えながら、なんとか暮らしを続けたものの、ある晩ついに、大きな事件に巻き込まれ...
と、こういう内容です。
しっかりものの娘、リビーが語るこの冒険に満ちた物語は、子どもの気持ちを世界一理解している作家アレックス・シアラーが作り出す、なんとも痛快なお話です。
大人が創り出した不自然な社会のルールを、純粋な子ども心で風刺するその手法はあいかわらず顕在です。笑い話のなかに、ちくりと心の痛みを感じるのがちょっと心地よかったりします。
この本のテーマは、「夢」ですね。
生活に必要なモノがすべて揃っているデパートに住んでしまうということ自体、ワクワクとする夢のようなことですが、リビーはいつか必ずお父さんがたくさんのお金を持って帰ってきてくれるという夢を見続けて、毎日を懸命に生きています。いつかお金持ちになって、家族みんなで平和に暮らせる家を手に入れるという夢が、いまのどんなに惨めな境遇をも乗り越えさせてくれます。
しかし、最後に気づくんですね。「夢」が叶ったときに幸せになれるのではなく、叶えようと努力している今こそが、幸せなときであるということに。
あたしね、ママ、スコットレーズの紅茶・コーヒー売り場にある紅茶を全部手に入れるより、この経験ができてよかったと思ってる。ほんとうに、そう思ってる。だって、冒険は何よりすてきだもの。宝石や宝飾品以上のものだもの。くよくよ思い悩んでなんかいられないっていうくらい、すばらしいことだわ。冒険に勝るものはないし、家族よりすてきなものもない。お金なんかなくたって、そんなの平気よ、ママ。だって、あたしたちにはママがいるもの。ママがいっしょにいてくれるかぎり、あたしたちはずっと冒険していける。
このリビーの言葉が泣けます。心に染み渡りますね。
人生にとって、本当に大切なものはなんなのか?というのを考えさせてくれます。
富の限りを尽くした世界一豪華なデパートに住んでいながら、何一つとして自分のものはない。でも、デパートでは手に入れることのできない、もっとも人生で大切ですてきなものをリビーたちはすでにもっていたのです。
そんなことを気づかせてくれる心温まるお話でした。
さすがアレックス・シアラー、お話が面白いだけでは終わりませんね。
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